刺繍の作品は、刺繍の技が巧みであることだけではなく、文様と色彩と選技の四つの要素が伴って、初めてすぐれた作品といえます。この四要素は、日本の長い歴史の中で培われ、受け継がれて今日にいたりました。
そのことをひとまとめにしてみますと、補修、補強の実用面からスタートした刺繍は(原始)、繍仏制作の技法として発達し(飛鳥~鎌倉)、外国から文様を学びとり(奈良)、その文様の和風化とともに、襲(かさね)の色目による色彩美を磨き上げ(平安)、洗練された能の装束を通して極められました(室町)。こうして培ってきた技法、文様、色彩を結集させて、一枚の小袖を飾るようになったのが桃山時代です。さらに、厚手の帯地上ならではの重厚で力強い繍法が発達したのが江戸末期、消耗品的な半衿に外国の刺繍にもよく見られる変わりぬいが加わって発展したのが明治・大正時代でした。このように、刺繍は、それが何に施されるかによって大きく変化し、その時代の人々の生活感情とも密接に関連して、発展してきました。